
S邸
Description of the work
駒寄(犬矢来)──竹が守る、美しき日常。
通りに面した黒壁に、ゆるやかな弧を描いて立ち並ぶ青竹の屏風。
これは「駒寄(こまよせ)」あるいは「犬矢来(いぬやらい)」と呼ばれる、かつて町家を守るために生まれた日本の伝統意匠です。
この作品では、職人・片岡大輔の手により、均一に割られた青竹が美しくしなり、建物の足元を包み込むように連なります。
その滑らかな曲線は、まるで自然の呼吸を写し取ったかのよう。
鋭さを感じさせない、柔らかな防御。それが駒寄の真髄です。
もともとは、犬の糞尿や泥はねから家を守るための実用的な工夫。
しかしこの竹のシェルターは、ただの防壁にとどまらず、住まいに品格と温もりを添える“美の装置”として存在しています。
洗練された外壁と調和するように設計された角度と高さ。
密に編まれた竹のリズムが、通りを歩く人々の目を引き、そこに住まう人々の感性を静かに物語ります。
やがてこの竹も、陽と風とともに色を変え、渋みを増していくでしょう。
それは劣化ではなく、風景とともに“歳を重ねる”という美しき変化。
駒寄は、暮らしを守りながら、街にそっと美意識を添える。
まさに、日常と伝統を結ぶ“静なる結界”なのです。